今後、増えることが予想される「新型コロナウィルスと労災」について。

感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられるような業務に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断するされいてます。

5月に入り、医療従事者を中心に労災認定例が出てきました。
4月30日時点では決定0件でしたが、5月19日時点で請求43件のうち、決定3件(支給も同数)となっています。
決定された3件のうち、2件は医療従事者、1件は生活関連サービス業。感染流行期でも出社が必要なエッセンシャルワーカー中心となっています。
参考)新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数 平日毎日更新されています。
韓国ではコールセンターの労働者が、新型コロナウィルス感染症の労災申請を行い3週間で認定された例がありました。

 感染症の労災認定については、感染経路が特定され、業務または通勤との関連性(相当因果関係)が明らかに認められる場合には、労働者は労災給付の対象となり得ます。新型コロナウィルス感染症の場合は、発症前からの感染性や症状の程度に個人差が大きいこと、長い潜伏期間等から、感染経路の特定や業務との関連性の証明が難しいことが予測されます。しかし、感染経路が保健所等において特定できない場合であっても、労働基準監督署おいて、個別の事案ごとに業務との関連性(業務遂行性業務起因性の2つ観点)について調査し、業務上外を判断することになります。
 なお、労災認定は業務上外を判断するものであって、認定がただちに事業者の過失や責任を問うものではありません。

 これまでの動向を、行政通達を中心に下記にまとめています。傾向としては、感染経路が明らかで無くても、個々のケースによって、労災と認められる例が出てきています。
 特に2020年4月28日発表された厚労省通達や厚労省Q&Aの改訂によって、対象の範囲拡大や具体的な取り扱いが示されました。

「日本産業保健法学会」にても、新型コロナ労務Q&Aが掲載されています。参考にされてください。
Q1:労災認定
Q2:在宅勤務と復職
Q3:休業手当
Q4:整理解雇
Q5:派遣社員の休業

これまでの行政の動向について

「新型インフルエンザに係る労災補償業務における留意点について」(2009/5/1)

新型インフルエンザ《インフルエンザA(H1N1)》が流行した2009年当時、厚労省から各都道府県労働局へ通達された内容です。
医師、看護師等が等が患者の診断若しくは看護の業務等により、新型インフルエンザに感染し発症した場合には、原則として労災保険給付の対象となる。

新型コロナウィルス感染症に係る労災補償業務の留意点について(2020/2/3)

厚労省から各都道府県労働局へ、上記通達が出されました。
相談又は問い合わせ対応について、一般的に細菌やウイルス等に感染した場合と同様に、新型コロナウイルス感染についても、特定の業種や業務について業務起因性が無いとの予断を持たずに、感染経路や業務や通勤との因果関係が認められれば労災給付の対象となる事を相談者に対して懇切・丁寧に説明することが記されています。
別紙「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償の取扱いについてQ&A」には、3つの事例について、業務上外となるケースを具体的に例示。
Q1 海外出張中において、新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となるか
出張行程全般は業務遂行性があり、感染経路や業務との関連を踏まえ、商談等の業務で感染者と接触し、私的行為で感染源や感染機会がなく、帰国後に発症した場合は業務上。一方で、私的な目的で感染が流行している地域に滞在した場合や、私的行為中に感染者と接触したことが明らかで帰国後に発症した場合は業務外。
Q2 国内において、新型コロナウイルス感染症を発症した場合
業務又は通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され、発症までの潜伏期間や症状に医学的な矛盾がなく、業務以外の感染源や感染機会が認められない場合、例えば接客などの対人業務において感染者と濃厚接触した場合など業務上としている。一方で、私的行為中に感染者と接触したことが明らかで、業務では感染者との接触や感染機会が認められない場合は業務外としている。
Q3 出向などにより海外法人に雇用されている日本人労働者が、現地で新型コロナウイルス感染症を発症した場合
海外派遣に係る労災保険特別加入していれば、国内の労働者と同様の考え方に基づいて業務上とするとした。

「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業で働く方々等の感染予防、健康管理の強化について」(2020/4/17)

厚労省が労使団体や業種別事業主団体向けに上記通達を出しました。
事業者へ労災申請の勧奨を求める依頼が含まれています。その他、職場の感染予防や発生時の対応ルールなどが記載されていますので、各職場の対策に参考にしてください。
<労災保険制度について>
労働者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、業務又は通勤に起因して発症したものと認められる場合には、労災保険給付の対象となることから、労災保険制度について周知していただいた上、適切に請求を勧奨していただきたいこと。

「新型コロナウィルス感染症の労災保険給付に関する相談又は問い合わせがあった場合の適切な対応について」 (2020/4/23)

厚労省が各都道府県労働局へ、労災保険給付相談に関する通達を行いました。
「感染経路が特定できない」≠「保険給付の対象にならない」(イコールではない)
相談又は問い合わせがあった場合には、感染経路が特定できないことをもって直ちに保険給付の対象とならない旨を説明するなど予断を持った対応をおこなうことのないよう徹底されたい。

「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(2020/4/28)

厚労省が各都道府県労働局へ、新型コロナウィルス感染症の労災認定について、対象を幅広くそして具体的に記した内容の通達を行いました。
<具体的な取り扱いについて>
・医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。
 ・医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。
・医療従事者等以外の労働者であって上記以外のもの
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。

新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)(2020/4/28改訂)

4月28日の通達に合わせて、新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)「労災補償」の項目が改訂されました。
<4 労災補償>
問1 労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、労災保険給付の対象となりますか。
業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
請求の手続等については、事業場を管轄する労働基準監督署にご相談ください。

問2 医師、看護師などの医療従事者や介護従事者が、新型コロナウイルスに感染した場合の取扱いはどのようになりますか。
患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。

問3 医療従事者や介護従事者以外の労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合の取扱いはどのようになりますか。
新型コロナウイルス感染症についても、他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明し、感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断することとなります。

問4 感染経路が判明しない場合、どのように判断するのですか。
感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる次のような業務に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。
(例1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務
(例2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

問5 「複数の感染者が確認された労働環境下」とは、具体的にどのようなケースを想定しているのでしょうか。
請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合をいい、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しています。
なお、同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらないと考えられます。

問6 「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」として想定しているのは、どのような業務でしょうか。
小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等を想定しています。

問7 上記答4の(例1)、(例2)以外で示した業務以外の業務は、対象とならないのでしょうか。
他の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。

問8 新型コロナウイルスに感染した場合、請求手続について事業主の援助を受けることはできますか。
請求人がみずから保険給付の手続を行うことが困難である場合、事業主が助力しなければならないこととなっており、具体的には、請求書の作成等への助力規定などがありますので、事業主に相談をしてください。
なお、事業主による助力については、労働者災害補償保険法施行規則第23条で規定されています。
※ 労働者災害補償保険法施行規則第23条(抄)
1 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。
(略)

職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について(2020/5/14)厚生労働省

(2)労災補償について
労働者が業務に起因して新型コロナウイルスに感染したものと認められる場合には、労災保険給付の対象となること。
この際、感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合のほか、調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを個々の事案に即して適切に判断することとしていること。
(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
また、患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。
このため、上記取扱いについて周知いただくとともに、労働者の感染が上記のいずれかに該当するなど労災保険給付の対象となると考えられる場合には、労災請求を勧奨していただきたいこと。
なお、感染した労働者が自ら労災請求の手続きを行うことが困難である場合には、事業者はその手続きを行うことができるように助力しなければならない(労働者災害補償保険法施行規則第 23 条)とされていることに御留意いただきたいこと。